金田 勝良(かねた かつよし)さん

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COREZO(コレゾ)

「建物が発する音に耳を傾けて、よく相談し、徹底して基本に忠実だから失敗しない、曳き家職人親子」賞


有限会社金田工業 代表 曳き家職人 

金田 勝良(かねた かつよし)さん

長野県須坂市

有限会社金田工業 代表 

曳き家職人  

ジャンル

伝統建築技術

伝統文化

曳家


受賞者のご紹介

家を建てる予定がある方は必読!!

 

金田 勝良(かねた かつよし)さん、晃典(かねだ あきのり)さん親子は、長野県須坂市で有限会社金田工業を営んでおられる曳き家職人さんだ。

 

 株式会社修景事業の金石 健太(かねいし けんた)さんと西山 哲雄(にしやま てつお)さんのご紹介で、長野県須坂市にある有限会社金田工業近くの曳き家現場でお話を伺うことができた。

 

−− 一般の人には、なじみが薄いご職業だと思うので、曳き家さんの仕事をシロートのワタクシにもわかるように教えて頂けますか?

 

「簡単にいうと、建築物を解体せずにそのままの状態で別の場所に移動する仕事ですね。水平に移動するだけでなく、低い位置にあったのを高い位置に移動するのもやりますし、地盤が悪くて、基礎が下がったのを持ち上げて修復したり、地震等で傾いたのを直したりするのも曳き家の仕事です。最近では、歴史的建造物の維持保存するための依頼も多いです。」

 

−− 代々、曳き家さんをやっておられるのですか?

 

「ウチの祖父が、大正時代末期に長野市中央道路(現中央通)の拡幅工事に携わって、そのまま曳き家を始めて、当時の知事登録からもう86年以上経っています。私は3代目で、息子は、4年ばかり東京に行って他の仕事をしていたのですが、やっぱり、こういう仕事をやりたいと戻ってきて、4代目を継ぎ、今は、弟や息子の友だちのような若い衆、3人ばかしと一緒にやっています。」

 

「実は、私、去年、病気を患ってから現場を離れていて、ちょうど丸一年になりますが、随分と良くなったので、復帰しようと、今、リハビリ中なんです。だから、この現場は、全部息子たちがやっているんです。」

 

−− それはお大事になさって下さい。年間、現場は、何件ぐらいで、引き受けておられる地域は?

 

「以前は、職人も大勢いて、基礎やる人、左官屋さん、大工さんもいて、何組にも別れて現場に行っていたのですが、だんだんと仕事が減り、分業化も進み、今は、曳き家専業で、年間では、大小合わせて、10件ぐらいでしょうか、どうしても断れない事情があって、愛知県や新潟県まで行ったこともありますが、なるべく、地元を大事にしたいと思っているので、この近辺と県内の車で行ける範囲が中心です。」

 

−− これまでに曳かれた一番大きな建物は?

 

「長野県上田市の4階建てのまゆ蔵ですね。このすぐ近くにある須坂の3階建てのまゆ蔵も、道路整備計画の関係で、高低差4m50cmの高い方から、水平距離で180mばかり、3回、回転させて、曳き下ろしました。須坂の方は、瓦も全部下ろして曳いたんですが、上田の土壁は、竹小舞ではなくて、厚さ9cm、幅30cm、長さ180cmの羽目板が1〜4階まで全部も壁にはまっていて、それに竹釘を打ち、手で編んだ縄を下げて土を塗り込むというのを繰り返した特殊な構造で、重量が半端ではなく、これまでの中では一番重かったと思います。」

 

−− それで、どこも壊れなかったのですか?

 

「全然、一切、何ともなかったですね。最後は専売公社に貸していたようで、タバコは重いのにね、中の仕切りも梁を支える柱も全部取り払ってしまっていたからか、太い梁が3カ所折れていて、集成材等でしっかり補強してから曳きました。1カ所に付き、20tと10tの油圧ジャッキを3カ所、それを7通りかけても楽に上がらなかった程の重量がありました。それに、先に移動する場所の基礎をしておけばいいのに、曳いた後に、持ち上げたまま、その下で基礎工事をしたので、作業をした人たちは大変だったと思いますよ。その間、建物を支えるのに入れていた角材も何本か折れいてたぐらいだから、よっぽど重かったんでしょうね。」

 

−− 曳き家のやり方を教えて下さい。須坂のように高低差のあるのはどうするのですか?

 

「まず、建物の床を全て外し、土台に近い部分の壁に穴をあけ、建物の柱の下やその他に太い梁のような木材を何本も通して、土台を基礎から持ち上げても、建物が歪んだり、バラバラにならないように何カ所もワイヤをかけて固定します。建物が基礎の上にあった時より、さらに強固な状態にした上で、基礎と土台を切り離して、ジャッキで持ち上げ、その下に水平をとりながら、仮の土台を枕木で井桁に組んでいきます。枕木には、ねばり強く、一気に折れてしまわない唐松を使います。」

 

「水平に枕木を井桁に組んだ土台の上に、道木と呼んでいる木材(15cm×24cm×4m)で、建物が移動する道を作ります。重いものだと、鉄道のレールを使うこともあります。建物と道の間に、鉄の丸棒を何本も置いてローラーやコロのように使います。ウインチで引き、水平に移動させます。現場によって違いますが、そうですね、1日に曳けるのは、10mぐらいですね。次に、ジャッキで位置を下げ、そのレベルに合わせた土台を枕木で組み直して道を作り、水平に移動させるというのを繰り返します。少しずつ水平に移動させては、位置を下げ、最終的に、移動先のレベルに合わせます。」

 

−− 回転はどうするのですか?

 

「同じように土台を組み、回転できるように、支点を決めてベアリングの入った軸を置き、それを中心に対角にワイヤをかけて2台のウインチで二方向から引いて回転させます。」

 

−− スゴい技術ですね、それは代々引き継いでおられるのですか?

 

「技術というか、基本ですよね。どんな職業も同じで、最低これだけは覚えて、やるっていうのがあって、後は、現場によってそれぞれ条件が違うから、その応用ですね。」

 

「ここはこうやるんだって言えば、そんなことしないで、こうやった方がいいって、息子も色んなことを言うようになりました。要するに、楽して、早く動かすとか、そういうことを考えてるんですね。言うってことはそれだけ成長している訳で、私もそうだったので、よくわかります。でも、それをやっちゃうと、次の段階、さらに次の段階に行った時に誰も助けてくれない、自分が困るだけなんですね。その段階、その段階のやるべきことをきちんとやっておくことによってね、安心して次の段階に進めるんです。実際、ワイヤで縛るのをきちんとやっておかないと、建物を上げた時に、万一、ワイヤが緩むと、もうどうしようもないんですよ。最近では、息子もわかってきたのか、そこをちゃんとやっておかないと後で困るって、自分の弟や若い衆に言ってますよ。」

 

−− それって経験ですよね?

 

「そう、経験ですね、現場によって条件が皆んな違いますからね。私がよく言うのは、建物とよく相談してやりなさい、ってこと。もちろん、しゃべらないけど、昔は、釘とかを使わずに木で組んでたから、下がったのを上げれれば、ギイギイとか音がなる訳ですよ。人間なら、ああ楽になったとかね、そんなサインだから、建物が発する音とよく相談してやりなさいって言ってます。


−− プレハブ建築なんかで音が出なかったら?

 

「ハハハハ、音が出ないのは建物が死んでいます。死んでいる建物で音が出ないのは気をつけないといけない。いきなり、ドーンときて、大ごとになりますからね。生きている建物は、必ず、色んな音を出しますから、音が出たら、すぐにそこで止めて、どこから音が出たのか、どこが具合悪いかのかを確認します。」

 

「今では、コンピューターで制御して、スイッチひとつで均等に持ち上がる便利な道具もあすよ。そんなのでやると、建物に有無を言わさず、無理矢理にでも上げてしまう訳ですよ。人の手でやれば、異変をすぐに感じ取れるし、ウチでは、重さも全部自分で感じられるように、全て手動の油圧ジャッキを使っています。」

 

「四方、八方にジャッキをかけて、同時に上下するのではなく、片方は、枕木で組んだ土台に固定しておいて、片方ずつ少しずつ上下するんです。そうしないと、ひとつでもジャッキが傾くと、そこに一気に加重が掛かり、そうなると止められなくって、倒れてしまいます。全部のジャッキを同時に平行に動かすのは難しいですよ。上げるより、下げる時の方が気をつけなければいけません。」

 

「今は、近代的な道具を導入して、使いこなしてやっていかなければいけない時代だと思うのですが、ちょっと間違えば大事故になることもあります。事故が起こると、原因はこうじゃないかと、あれこれ想像するのですが、大体、当っていますね。」

 

「何年か前に、名古屋で、橋桁がそっくり下に落っこちたことがあって、あれは、据え付けるのに下げていたんですけど、大抵、事故が起こるのは3時過ぎなんですよ。要はね、それまで5cmずつ下げていたのに、計算して、夕方までに終わらないってなると、明日、また続きをやればいいのに、急いじゃうんですよ。で、5cmを7cmとか8cmにしちゃう。これぐらいならいいじゃないかとか、大丈夫だろうって、勝手な判断をするのが危ない。鉄と鉄がかかっている部分は、ちょっと滑れば止められないですよ。どんな作業も余裕を持ってやらないと、事故を引き起こす原因になります。全てそうです。」


「鉄の骨組みだけの建物も曳いたことがありますが、慎重の上にも慎重を重ねて曳きましたよ。音が出たらすぐに止めて、何が原因で音が出たか調べてね、細心の注意を払って作業をするのが基本です。」

 


−− 曳き家さんって、全国にどれぐらいあるのですか?

 

「この近辺には、1年に1〜2件やる業者なら、いるにはいますが、後継者が育たなくって、廃業したところが多いですね。全国といわれても、調べたことがないので正確なことはよくわかりません。最近、日本曳家協会(会員数:約60社)というのができたらしいのですが、ウチは入っていないですし、地区に組合のようなものもないからよくわからないですね。ただ、この近辺でも、何十年も前から曳き家という看板は上げていても、実際にはできないところも何軒かあって、もう下請けも廃業しちゃったっていうんで、ウチに依頼が回ってきたりしています。」

 

「組合とか協会に加盟すると、組合単価が決まっているからなのか、遠方の現場からウチが頼まれて、高速代等の移動費を加算して出した見積より、地元の組合加盟業者のほうが高かったようで、仕事が来たこともあります。」

 

−− 曳き家さんの見積って人工料金なのですか?

 

「立地条件もありますが、平らなところなら、人工で計算するんで、儲かるなんて商売じゃないですね。」

 

−− 技術料はもらわないのですか?

 

「ウチの会計事務所からもよく云われるのですが、そういうのは性格的にできないんですよ。その代わり、値切られたり、無理な要求をされると、他を探して下さいと、お断りしています。」

 

「ある現場で、最初にウチが相談を受けて出した見積りが、何十年も前の建築資材単価を引き合いに出されて、高いって云われたもんですから、なら、他を探して下さい、とお断りしました。それが、1ヵ月後には、オタクは、高いって云ったけど、改めて調べたらスゴく安いから頼む、って云ってきたんですよ。ウチは、高い、安いのって商売はしていませんからできませんって、断ったんです。それでも、曳くのだけでもやってくれって頼まれて、仕方なく引き受けたのですが、現場が止まってしまって、にっちもさっちも行かない。」

 

−− どうして止まっているのですか?

 

「曳き家を知らないところが元請けに入ったので、次々に追加の請求が増えて、もめているんですね。曳いて移動したものの、新しく作った基礎に載せられないから、何度もやり直して、ウチが最初に出した見積りの何倍にも膨れ上がっているんですよ。私らから言わせると、工程が全くアタマに入っていないからなんです。やってみたら上手くいかないので、やり直し、やり直しの追加工事になっている。屋根も壁も補修しない前提だったのに無駄な足場を架けていたり、最初の見積りは何だったんだ、ってことになりますよね?詐欺ですよ。」

 

「おまけに、平行に曳くだけ、としか聞いていなかったのに、回転しないと曳けないし、その分の追加料金ももらってないのに、値引きの交渉をしてくるし、こっちの工期も大幅に遅れるし、堪ったものじゃない・・・。今じゃ、お施主さんが私のところに相談に来るんですよ。」

 

−− しかし、やったこともない、できもしない仕事の見積りを出して、受注するってどういう神経なのでしょうか、元請けが金田さんに依頼する場合、本来、元請けの方が、経験と知識を持っているべきですよね?

 

「ま、勉強するなり、教えてもらうなりすればいいんですけどね・・・。元請けとしては、土壁が全部落ちるとか、最悪の場合を想定すると、見積が高くなってしまうので、一番、上手くいった場合を想定しがちなんですが、お施主さんは素人ですから、施工を請負う業者は、事前に説明責任を果たすべきですよ。お客さんが納得していれば、もめ事なんて起きませんから。事前に見積をしても、追加工事をして最終的にこれだけかかりました、っていうのが通った時代もありましたが、もう、そういう時代ではないのに、未だにやっている業者がいて、そういうところは、工期は守らないし、工程も何度もやり直して、それもデタラメで守らない。」

 

−− そんな業者を選んだ施主にも責任があるというか、施工費を払う訳ですから、それなりに勉強して、安心して任せられる業者を選ぶ目も持たなければならないのでは?

 

「ウチにはウチの得意な分野がありますし、大手にしか出来ない仕事もあります。どれだけの施工実績があるかぐらいはお施主さんでも調べることが出来るでしょうし、ウチがお受けする規模の現場の施工原価はどこでも同じようなものだと思いますが、業者も大手になればなるほど、企業としての経費もかかるので、利益も上乗せしなければなりません。そういうことも、少し考えればわかることです。」

 

「昔と同じ工法で修復するには、時間も手間もかかります。場合によっては、それを出来る職人さんがもういないことの方が多いです。ウチが蔵を曳く場合は、後の修復のことも考えて、落ちそうな屋根だと、事前に瓦は下ろしますし、土と漆喰の蔵扉なら外し、土台も出来るだけ既存の土壁を温存できるように基礎に近いところで、カッターで丁寧に切り離します。」

 

「頼まれれば、手配はしますが、古い考えかも知れないですけど、父親によくいわれたのは、お施主さんの身内や知り合いに、付き合いのある基礎屋さん。左官屋さん、屋根屋さん、大工さんもいるかも知れないので、先に尋ねて、そちらを優先してもらうようにしています。」

 

−− 建物の傾きの修正や基礎の修復も曳き家さんの仕事なんですね?

 

「そうです。家屋を持ち上げて、下の基礎を全部やり直すならいいんですが、最近では、下がった分だけ支えものをして、下ろすだけという勘違いしている業者が多くて、元々、地盤が悪くって基礎が下がった訳ですから、いくら平らにしても、必ず、何年か経つとまた下がります。で、誰がやったってことになるんですが、請負った業者さんは責任を負わずに、家屋を持ち上げた業者に責任をなすり付けちゃうことが多いので、元からやり直さないなら、ウチでは、請け負いません。」

 

「実際にあるんですよ。2〜3年前にやったのは、新築だったのですが、切り土と盛り土にまたがって建てちゃったんでしょうね、建前が始まるとだんだん加重が掛かって、盛り土の方が下がり始めて、完成した頃には、一方だけ30cmも下がってしまったという現場がありました。お施主さんは、完成前に転勤になって、3年後に戻って住むようになってから実感したようなのですが、業者に言ったら、完全に下がるまで待ちましょうって、毎月調査して、これ以上下がらないっていうまでに10年間待たされたそうです。それで、絶対大丈夫だ、と言って地盤調査もしなかった工務店から、自分たちの責任だから、できるだけ費用をかけずにやって欲しいって頼まれました。」

 

「行ってみると、床を剥いであったのは一部の部屋だけなんですよ。普通なら、床は全部剥いで、壁に穴を開けてワイヤをかけて、建物を固定してから上げるのですが、修復に費用が掛かるからしないでくれって云うので、普通なら、片側4箇所づつ、計8箇所もかければいいんですが、床下に入って油圧ジャッキを30台ぐらいかけて、基礎のアンカーボルトが抜けても、建物がバラバラにならないように何箇所もワイヤをかけ、準備するのに3日間ぐらい掛かって、大変な作業でしたよ。で、上げた後、どうするのか聞くと、キャスターっていうプラスチックの支え棒のようなのを基礎と柱の間にかまして、それまでの基礎の外側に型枠を作り、コンクリートを流し込んで新しい基礎を打つ、とか言ってましたが、ウチは曳いただけなので、その先はどうしたのかわかりません。」

 

−− 曳き家さんって、欠陥住宅を修復する正義の味方ですね?

 

「こんなこともありましたよ。ハウスメーカーさんって、営業と設計、現場監督も大工や職人も皆んな担当が違うじゃないですか?連絡の不行き届きだったんでしょうね、南と北を逆に建ててしまったらしく、社内でもめたものの、全部解体して組み立てたら、再利用できない材料ばかりなので、曳いてくれって依頼があったんですが、さっき言ったように、音の出ないプレハブ住宅は、開いちゃったら絶対に戻らないし、なるべくやらないようにしているので、お断りしました。」

 

−− えっ、そんなことがあるのですか?誰も気付かないんですかねぇ?

 

「同じような話が年に1回ぐらいあるんですよ。分業でしょ?自分の分担の責任しか考えていないから、誰も北側に居間の窓がある図面を見ても疑問にも思わないし、完成まで任せっきりで一度も見に行かない施主さんもいるらしいですよ。」

 

「こんな話もありましてね、前の家を建てた当時は車もなかったので、道路に面して、横に1台分しか駐車スペースを確保していなかった施主さんが、建て替えに際して、セットバックして道路に面して縦に2台分駐車できるように依頼したのに、業者が横にも駐車できないぐらい道路ギリギリに建ててしまったらしいんです。」

 

「当然、話が違うとなって、業者から30cm奥に曳いてくれって頼まれたので、全部準備して持ち上げたところに、施主さんが見に来られたので、30cm動かすのも、1m動かすのもおなじだから、奥にスペースがあることだし、お好きなだけ曳きますよ、と親切心で伝えたら、その業者から、オタク、どこから仕事を頼まれたんだ?って電話があって、それでピンと来て、余計なこと言って申し訳ありませんでしたと謝りました。要は、基礎の全面やり替えとか水廻りの配管移動とかしたくなかっただけなんですよ。結局、30cm移動しただけで、施主さんは車も置けず、その現場監督はクビになって、その会社も倒産しちゃいました。」

 

−− 自業自得ですね

 

「新潟の地震の直後も、国交省だかに頼まれて、調査に行きましたし、東北の震災の時には、家が傾いて困っている人がいるんで助けて上げて下さい、って知り合いから頼まれて、行きたくても行けないので、電話で色々アドバイスをしました。その後、同じ方から電話があって、千葉の業者が来てやってくれたそうですが、高価な水平器を買ってきて、当ててみると、あと1cmぐらい上げると水平になるので頼んでも、これ以上上げると家が壊れるってやらないらしいんですよ。」

 

「それで、建てた時に平らだったら、あと1cmぐらい上げたって何の問題もないから、もし、壁が落ちたら工事代は全部支払うし、何かあったら親戚筋の建築関係の者が見に来てくれることになっているから、あなたたちも男なら、やってみてくれ、って言いなさいって、やらせたら、何の問題も無く持ち上って、水平になったそうです。何だかんだと言って、お金目当てだったんでしょうね。震災で困っておられるのにとんでもない業者ですよ。」

 

「どんな仕事でも一緒だと思うのですが、造り酒屋さんなら、最初から最後まできちんと工程を組んでやって行かないと、途中で手を抜けば、まともなお酒にならなくて、売れなくなっちゃうでしょ?やることはちゃんとやらなくちゃダメなんですよ。」

 

「余計な話ですけど、ある酒蔵に仕事に行った時に酒造りを色々見せてもらったんだけど、3日で出来ちゃうお酒もあるんですってね?そういうのを製造する設備を備えたトレーラーがあって、手配するとやって来て、アルコールと水と水あめだかの原料を入れて機械を動かすと、酒になって、紙容器のパッケージに入って出てくるそうです。そういうのは飲まない方がいいですよ、身体を壊しますよ、って言われましたよ。そういうのがお酒っていえるかどうかわからないですけど、需要があるんですってね。」

 

−− お酒でもみりんでも醤油でも、安くするには、原材料を含めたコストと手間と時間を省かなければなりません。熟成期間を短縮しようとすると、足りない風味を補わなければないから、化学合成した添加物を入れることにつながって、それが、健康に何らかの影響を及ぼしたり、どこかにしわ寄せが来るんですね。結局、それを選んだ消費者の責任ですよ。ワタクシなら、もし、曳き家をすることになった時には、金田さんにお願いしますよ。

 

「曳き家の仕事は一人では絶対にできない仕事です。よく失敗したことはありますか?って聞かれるんですが、失敗してたら商売は続けられませんよ。失敗して廃業したところが何軒もあります。文化財、神社仏閣や歴史的建造物を曳く時も保険は掛けていません。保険をかければ、きっと保険料は高いと思いますが、掛けたことがないのでわかりません。」

 

「曳く前の建物にジャッキを当てて、少し持ち上げてみて、その建物の土壁が落ちるかどうか見抜くことができるようになれば一人前の曳き家職人です。土壁には小舞が入っていますが、ツナギの縄が腐ってしまうと縁が切れて、土台と柱だけで保っている状態になります。そうなると、持ち上げた瞬間に全部落ちてしまうこともあります。本来、土壁は丈夫で、ツナギになる藁を手で編んだ縄がたくさん入っていれば入っている程、さらに丈夫なんですが、壁に雨水等が侵入して縄が腐ってしまうとツナギの役目をするものが無くなってもろくなります。土蔵の場合は、約90cm間隔で柱が入っているので、それで何とか保っている場合が多いですね。」

 

「試しに、5mm持ち上げただけでも落ちる場合がある訳ですから、土壁は落ちることを前提で了解してもらった上で、曳きます。土壁にクラックが入っている場合は、その入り具合で、曳いたらどこが落ちるか大体予測がつきます。曳いた後、落ちた土壁を補修する時も、塗った当時と今の土壁では強度が違うので相性が悪い訳ですよ。だから、網を入れたり、補強をしないと、数年経つと、塗った土壁が落ちちゃったり、不具合が出ます。」


「私らは、縁の下の力持ちで、陽の目を見ることもありませんが、古くてもいい建物を残していくには、曳き家の仕事は欠かせません。木造建築がある限り、残っていく仕事だと思います。ただ、そういう意識のある工務店さんの社員さんがどれだけいらっしゃるか、でしょうね。というのも、社員さんだったら、建て替えて新築を受注する方が勤務先の工務店への貢献度は高いでしょうからね。」

 

COREZO(コレゾ)財団・賞の趣旨をご説明して、受賞のお願いをしたところ、「何をご協力すればいいのですか?いくらか費用は必要ですか?」とおっしゃって下さったので、「表彰式にご出席頂くだけで有難いので、宜しくお願い致します。」と、お応えした。

 

 金田さんが曳かれたまゆ蔵がすぐ近くにあるとのことで、ご案内頂いた。機織り体験と休憩スペースとして利用されていて、須坂市が管理しているという、立派な建物だった。

 

 このまゆ蔵の曳き家工程を記録したビデオを見ることができて、金田さんのご説明がよく理解できたが、意外にも、巨大なまゆ蔵を手動の小さなウインチで曳いておられたのに驚き、曳き家を継承してこられた先達の知恵と技に改めて感服した。

 

 それにしても、聞けば、聞く程、建築業界もブラックな業界だが、ピュアホワイトな金田さんの爪のアカでも煎じて、良心を取り戻して欲しいものだ。

 

ふれあい館まゆぐら

http://www.city.suzaka.nagano.jp/enjoy/kankou/mayugura/

まゆぐら移動ルート

http://www.city.suzaka.nagano.jp/enjoy/kankou/mayugura/pdf/mayu_ido.pdf

 

 COREZO(コレゾ)「建物が発する音に耳を傾けて、よく相談し、徹底して基本に忠実だから失敗しない、曳き家職人」である。

 

 本稿については、ご了解を得て、株式会社修景事業のブログを参考にさせて頂いた。一部画像も転載させて頂いた。この場を借りて御礼を申し上げる。

http://shukei.cocolog-nifty.com/blog/cat15542235/index.html

 

 金田勝良(かねた かつよし)さんに関するお問い合わせは

  メールで、info@corezo.org まで

 ※本サイトに掲載している以外の受賞者の連絡先、住所他、個人情報や個人的なお問い合わせには、一切、返答致しません。

 

COREZO(コレゾ)賞 事務局 (2014.07.最終取材、2014.07.17.編集更新 文責 平野 龍平)

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