飯尾 裕光(いいお ひろみつ)さん

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COREZO(コレゾ)

「商品力だけでなく、その背景から、自分自身の身形、言動まで、トータルでデザインを磨いて、情報発信する二代目」賞

株式会社りんねしゃ FARM MANAGER

飯尾 裕光(いいお ひろみつ)さん

愛知県津島市

 株式会社りんねしゃ FARM MANAGER

GOOD FOOD INFORMATION FOR FARM

アースデイ活動

ジャンル

ものづくり・販売

除虫菊線香

食づくり・販売

ほうろく菜種油


受賞者のご紹介

 飯尾 裕光(いいお ひろみつ)さんは、1975年愛知県出身。ご両親の教育方針から、子どもの頃から電気・ガス・水道のない自給自足の生活を経験。三重県の愛農学園愛農高校在学中にオーストラリア留学。三重大学生物資源学部で有機農業を専攻。父親の経営する無添加食品、有機農畜産物、天然素材生活雑貨を製造販売する「株式会社りんねしゃ」に入社し、自社製品の「菊花せんこう」の原料となる除虫菊の栽培等に取り組む。2006年から、名古屋市内でオーガニックカフェ「緑の屋根INUUNIQ」経営し、アースデイ名古屋の中心的役割を果たして来られた。

 今年の夏、網戸のないところで過ごしたからか、蚊に多く刺されたので、本物の除虫菊からつくった蚊取り線香はないかと調べると、2社の製品が見つかった。その後、たまたま、日東醸造の蜷川社長から、「ここの菊花せんこうは有名です。」とご紹介して下さったのが、その内の一社である愛知県津島市にある「株式会社りんねしゃ」さんで、それは奇遇と、早速お連れ頂いた。

 りんねしゃ宇治店の2階に通され、ビーチサンダル履きの健康そうに日焼けをした飯尾さんにご挨拶をして、菊花せんこうの話を伺った。

「2006年、菊花せんこうの原料になる除虫菊の栽培を始めるために、栽培適地である、北海道紋別郡滝上町に『りんねしゃ北海道支店』を開設しました。滝上町の特産品には、ハッカや『きたほなみ』という品種の小麦もあり、それらを原材料に使った『滝上小麦にごり酒 錦仙峡』という、りんねしゃオリジナルの薄荷焼酎やハッカあめもつくっています。」

「除虫菊は多年草なので、冬場は雪の下にあって、雪解けをした4月後半から5月にかけて、芽が出始めて、7月から8月にかけて収穫し、乾燥させて裁断し、工場に出荷します。その後、畑の手入れ、管理をして、冬に備えるといサイクルです。」

 −− 工場はどちらに?

「工場の担当ではないので、詳しくはないのですが、九州の方の委託工場で製粉し、線香の加工は、こちらの原材料、レシピで、和歌山にある委託工場で作ってもらっています。」

−− 原材料は除虫菊だけですか?

「いいえ、ほとんどが北海道産の白樺の木粉で、それに製粉した除虫菊とつなぎのデンプンを混ぜて乾燥させて線香にします。」

−− 日本で除虫菊の栽培や蚊取り線香の生産が始まったのは、いつ頃からですか?

「元々、和歌山で栽培が始まりました。除虫菊は、地中海・中央アジアが原産と云われ、明治19(1886)年頃に和歌山でみかん農園をしていた方が、農業交流でアメリカの方から除虫菊の種を贈られ、和歌山で栽培されるようになりました。殺虫成分があることがわかり、その方が、蚊取り線香を考案して、キンチョーで有名な大日本除虫菊を創業したそうです。歴史を本で調べてみると、昔の農家は家畜を家の中で飼っていたようで、除虫菊の花を乾燥させ、燻して、牛とか馬とかの虫除けに使っていたという記録はかなり残っていいます。1890年に世界で初めて誕生した蚊取り線香は棒状で、今のような渦巻き状になったのは、1895年頃からで、最初は人の手で成形していたようです。」

その後、和歌山県から、広島県、香川県を中心とした瀬戸内地方に栽培が広がり、一番多く栽培された北海道の北見管区では、ハッカも多く栽培されました。当時、除虫菊、ハッカ、紅花(油・着色料)の3種は、原料作物として世界中に輸出されていたぐらい多く生産されていました。戦後、除虫菊が植物として唯一持つ、殺虫成分であるピレトリンの類似化合物であるピレスロイドや薄荷に代わるメントール、紅花は合成着色料が安価に化学合成されるようになり、日本国内での栽培がほとんど途絶えてしまったのが1960年代のことで、日本の農業の歴史と非常に被ります。

「除虫菊の栽培は、尾道や瀬戸内の方に観光用として少し残っていますが、おそらく、国内で産業用として栽培しているのはウチだけだと思います。繁殖力、生命力のある植物ではないので、丁寧に草を刈る等、手間がかかり、栽培が難しい作物で、いろんなキク科の育苗業者を紹介してもらって、種を提供し、育苗してもらったのですが、芽が出ないとか、根腐れしたとか、ことごとく、失敗しました。それほど、繊細な植物です。北海道で栽培を始めて6年になりますが、ようやく、種を蒔いて、株分けをして、ある程度の量を収穫できるようになりました。」

−− 蚊取り線香を始められたのはいつからですか?

「ウチが蚊取り線香に取り組み始めてから20年ぐらいにはなります。今、除虫菊の一番の産地は、アフリカのケニアの高地で、その他、オーストラリアやニュージーランド、中国が主な産地です。元々、ウチはケニアから輸入していたのですが、いろいろな経緯があって、輸入が難しくなり、ウチの社長である父の付き合いがある中国の方が、除虫菊を栽培した経験があるというので、当社の自社農場として契約し、中国で栽培してもらって輸入をしています。今は、そちらがメインで、北海道で自社栽培しているといっても、製品全体の生産量に対してはとても足りません。」

−− 北海道の畑の広さは?

「土地としては8町歩(=8ha)ありますが、確実に栽培できるようになったのが、1町5反ほどです。とにかく、栽培のサイクルを確立するのが、非常に難しくて、丸5年掛かりました。ようやく、ある程度、周期がわかるようになって、今年から、苗をたくさん作ったり、定植したりと、本格的な栽培に入り、今後は、倍々で増産できる目処が立ちました。中国では10町歩分を委託栽培してもらっていますが、いずれにしろ、足りない状況が続いています。」

−− それだけ売れているということですか?

「蚊取り線香だけでなく、除虫菊の成分を使った防虫リキッドやスプレーも開発していて、コバエやハチ、昆虫類には全てに効くのですが、その分の原料が足りていないので、商品化しても安定して供給ができないという状況です。」

−− 除虫菊の殺虫成分ピレトリンと化学合成したピレストリンの違いは?

「ピレスロイドはピレトリンの類似化合物なので、同じ神経毒性があり、分子構造もほぼ同一ですが、決定的な違いは、その分解速度で、温血動物(=恒温動物)が吸い込んだ場合、天然成分のピレトリンは血中ですぐに分解されてしまうのに対して、合成のピレスロイドは分解されずに血中にそのまま残ることがわかっています。」

−− そもそも蚊取り線香を始められたきっかけは?

 「私の父は、化学物質に過敏な方で、和歌山に1社だけ残っていた、天然の除虫菊で作っている会社の蚊取り線香を愛用していたのですが、そこが廃業するという噂を聞いて、直談判に行ったら、そちらで事業を引き受けてくれという話になり、検討を開始しました。除虫菊の歴史や天然ピレトリンと合成ピレスロイドとの違いなどを調べて行くうちに、戦後、日本の農業や産業がアメリカの大規模農業や石油化学産業に駆逐されてきた歴史は、そのまま除虫菊にも当てはまり、合成されたピレスロイドがどんどん輸入されて、知らないうちに生活に浸透し、アレルギー反応を起こす過敏な人がいても、選択の余地が失くなっていることがわかりました。父は自然食品の事業を興して、添加物や環境汚染、公害問題と向き合ってきた歴史もありましたから、この商品は現代社会への具体的なアンチテーゼのアイテムになるだろう、と自社で取り組むことにしました。それで、その会社と製造契約を結んで、原材料の配合比率を決める実験を繰り返して、原料調達から新たに自社で開発したのです。」

「除虫菊だけを使った蚊取り線香を国内で生産しているのは、ウチの他にもう1社ありますが、国内で除虫菊を栽培しているのはウチだけです。また、除虫菊は栽培場所、年度、個体によっても、殺虫成分の含有量や、匂いにもかなりのバラツキがあり、効き目が安定した均一な商品にするためには、生産ロット毎に配合比率を調整しなければならず、大量生産にはとても向かないので、大手メーカーの製造ラインで作るのは難しい商品だと思います。」

「通常、蚊取り線香の副原料には産業廃棄物である汚泥を乾燥してから、燃焼した物が多く使用されていて、これに合成ピレストロイドと香料、着色料を加え、粘着性のあるツナギで固めて作ります。実は、除虫菊自体はかなり臭いがきつく、これを主原料に、無味無臭の汚泥を副原料にして作ると、臭いがきつくてイヤがる方も多く、ウチは、副原料に香りのいい白樺の木粉を使っているので、その分、価格も少々割高になりますが、有難いことに、その香りの良さからも、多くの消費者の皆さんから支持して頂いています。」

「そういう意味で、植物原料100%の蚊取り線香はウチだけだと思います。それから、メインの『菊花せんこう』は、厳密には、蚊取り線香ではありません。実は、蚊が寄ってこなければ、殺すこともないだろうと、殺虫成分を少なくしているので、蚊が死なないんです。だから、『蚊取り線香』とは表示できないので、『蚊遣り香』と呼んでいます。一般的に『蚊取り線香』と表示できるのは、薬事法上、医薬部外品として県知事の認可を受け、一定割合の合成ピレスロイド等の殺虫成分を含有して、基準通りの殺虫力があり、安定して同じ製品を作れなければ、『蚊取り線香』と表示できません。蚊が死なない『蚊取り線香』とは表示できませんが、そういう線香を作っているのはウチだけで、表示できる効能にも制限があり、蚊などの衛生害虫に効果ありとは表現できません。」

−− ということは人にも優しい?

「そうです。小さなお子さんがおられるご家庭や化学物質に過敏な方々にはとても喜ばれています。一般の方でも、蚊取り線香の煙で、頭痛や喉の痛みを感じる方はかなり多いです。煙のせいだと思ってらっしゃるようですが、実際は、殺虫成分の神経毒性が原因です。除虫菊で作ったスプレーもつくっているのですが、殺虫成分が多いので、噴霧した後、吸い込んでしまうと、クラっとしてしまいますよ。でも、体内に蓄積されないのが大きなメリットです。ウチでは、菊花せんこう、スプレータイプの他にも、アウトドア用、医薬部外品で、蚊取り線香として表示できる線香、動物用なども作っています。」 

「食べるものに使われる添加物や残留農薬の基準は厳しいのですが、家庭内殺虫剤の成分は、口に入れる前提ではないので、農作物に使う農薬と比べて、基準値が非常に緩く、虫除けスプレーのようなものに使われる成分は非常に残留性が高いのです。神経毒性は体内に取り込んでもすぐに症状として現れず、蓄積されて慢性化する特性があります。話は少しそれますが、ミツバチがいなくなったと問題になった、ネオニコチノイド系の農薬も神経毒性なんです。有機リン系なんかの油性の農薬は雨が降ったりすると、流れ落ちてしまうのですが、これは水溶性なので、植物の葉や茎に吸収されて、蓄積して効き目が長持ちします。水溶性なので安全だとか云われていますが、神経毒性なので、個人差があり、すぐに症状として出ませんし、蓄積されて、いつ慢性的な症状として現れるかわからないので、危険視されています。」

「食品添加物の方が、まだ、基準がハッキリしていて、どういう経緯で作られたのか、何に添加されていたか、追跡が可能ですが、家庭内殺虫剤が怖いのは、知らないうちに殺虫成分が生活の中に入り込んでしまって、無意識に身体に取り込んでいる典型的な化学合成物質であり、ほとんど追跡ができません。つまり、何か症状が出ても、原因の追及が困難だということです。」

「マット式、吊り下げ式、リキッドタイプ等、ひと夏、置いておくだけで、虫を寄せ付けないという殺虫剤は、本当に恐ろしいですよ。無臭のものはさらに恐ろしくて、自分がどれだけ吸い込んだかわからないし、無意識のままに身体に取り込んでいる可能性が高いですから、健常者で、全く症状が出ていなくても、蓄積された毒性が、その人の許容量を超えると、いつ慢性的な症状として現れるかわかりません。合成ピレスロイドを使った一般の蚊取り線香でも、匂いや煙が出るので、吸い込み過ぎると咳き込んだりして、一種の警告サインが出ますから、まだましだと思います。」

−− お父様が「りんねしゃ」さんを始められたのは?

「1974年に、合成洗剤や着色料などの食品添加物に疑問を感じた母が始めた主婦の会が起源です。その後、1989年に『株式会社りんねしゃ』として、法人組織に移行しました。自然食業界は、元々、社会運動の中で問題提起をしてきた人たちが、次の活動の場として始めたというのが多いので、その世代の方々は、非常に個性的な人が多いですね。」

−− 自然食の業界も転換期を迎えていると聞きましたが

「かなり、危機的な状況であるとは思います。良く言えば、自然食というものが、特殊なものではなくて、世間に認知されて、市場化してきたのです。具体的には、最近、話題になった、自然食業界の小口の流通ルートを欲しい大手コンビニや流通が、買収という形で、自分たちのマーケットに取り組もうとする動きですね。」 

−− 大手に取り込まれると、経済と効率を最優先する競争原理が働いて、消費者の選択肢はますます狭くなるのでは?

「でも、生産者自身も自分たちの商品の付加価値を高める、もしくは、流通量を多くするために、少しでも多く販売できる流通先に優先的に出荷してきた歴史がありますよね?僕自身の考えでいうと、現状は、なるべくしてそうなっている、という気がします。むしろ、大手が手がければ、もっと大量にたくさんの人に簡単に届けられるというのが、市場の要求で、国の政策自体もそれに対応していて、例えば、有機認証にしても、元来、安心、安全というのは、人と人のつながりで証明してきたのを、より簡易で客観的な認証制度でそのつながりを証明するものですから、そういう社会になりつつあるというのは間違い無いですね。」

「ヨーロッパの有機認証なんかは少し違っていて、農産物自体を認証するのではなくて、地域だとか農地を守る、もしくは有機農で地域を保全するという行為や活動に対してサポートしています。その行為や活動の先にある、それらに対する謝礼として与えられるのが農産物であり、本来の有機農産物であるという考え方です。有機農産物自体に価値があるという見方をすると、例えば、安全性だけなら、ドイツや米国で実際にあったのですが、有機肥料として未熟堆肥を使ったために、動物の糞の大腸菌が堆肥に残っていたことが原因で、『スプラウト(=発芽野菜や新芽野菜と呼ばれる、ブロッコリーや大根、大豆などを人工的に発芽させた野菜で、もやしやかいわれ大根もその一種)』からO157が検出されて、有機堆肥の問題が大きな世論になりました。その結果、野菜工場や無菌室の水耕栽培で育てられた作物の方が、安全性も、栄養価も確実に高いとか、味を美味しくするのも簡単だということがクローズアップされました。そうなると、有機農産物の優位性もどんどん失われていて、我々の業界が、その良さをどう伝えるかという次の戦略を持ってないと有機農も生き残っていけません。」

「蚊取り線香も合成のピレスロイドを使っていないから、安心、安全というのではなくて、元々あった、ローカルなもの、アナログなものを大事にするとか、虫を皆殺しにする必要はないだろうという考え方とか、地域の特産物で地域を保全するとか、生物の多様性を保全するとか、そういう視点でのアプローチに変えないと、いつまでも安心とか安全だけにぶら下がっていたのでは、大手に飲み込まれていくのは避けられませんし、今回、それが現実に起っただけのことです。」

−− 自然食品業界の商品を大手流通の販売チャンネルに乗せるには無理があるのでは?

「無理があるのは間違いありません。結局、大手流通は、現行の商品がそんなに売れるとも、儲かるとも思ってなくて、買収先の自然食業界の富裕層の顧客リストを手に入れるための先行投資だろう、と僕は読んでいます。本気で自然食品を流通させるという発想ではなくて、その富裕層を取り込み、自分たちのオリジナルの安心、安全をキーワードにした商品を売り込む戦略だと思います。例えば、あの『糖質0』とかのように、儲かる商品を、ですよ。」

−− 無添加ワインとか?

「そうです。それが、大手企業が新しい業態に進出する時の一つの典型的なパタンです。」

−− 1L、98円の水より安い醤油に何の疑問も抱かないようになった世の中は、変えようがないのでしょうか?

「僕は、実感として、全然、不安には思っていません。実は、今の若い人たちは、かなり敏感に正しいものを嗅ぎ分ける能力がついていると感じていて、むしろ、完全に毒されているのは年配の人たちのような気がします。若い人たちと付き合ってみると、見えてくるのは、これが安全とか、これが安心とか、パーツでは選択しないんですよ。かなり、全体主義なんです。要は、農家でありながら、味噌も作っていて、醤油も作っていて、ビジネスもちゃんとやっていて、一緒に遊んだら楽しい友人関係もできるというように、その対象をトータルで見ていて、グローバルな世界観、環境の中で、ローカリズムのようなものを持っている人でないと安心しなくなっています。」

「例えば、蚊取り線香屋さんとしては、もう、いい蚊取り線香を作っているだけではダメなんです。蚊取り線香という商品は良くても、陰で悪い事をしているかも知れませんよね?要するに、モノにはあまり信用を置いていません。ウチがどうして除虫菊の栽培にも取り組み始めたかというと、いいものを作っているなら、それを育てる必要もあるでしょう、自分で育てているなら、それを使って生活していないとおかしいし、それを使って生活している人だったら、高層マンションの上層階には住んでいないよね、そんな人が、ブランド物のスーツばかり着て生活している訳ないよね、とか、むこうは、いろんな意味で、自然派というカテゴリーの中での選択肢をたくさん知っています。つまり、こちら側がかなり立体的にトータルでいろんなことをやっていないと信用されません。」

「逆に、立体的に取り組んでいると、もの凄い勢いで繋がろうとしてくれます。それは、ウチは宣伝広告を一切していませんが、人間が媒体として運んで行ってくれることで実現しています。それを運んでくれているのは、かなり意識の高い人たちですが、ただ、問題なのは、その人たちは、あまり社会を変えようという意識はなくて、自分たちのコミュニティが平和であればいいんですよ。」

蜷川さん「それが昔の先輩たちとの違いなんですね?」 

「そうです。だから、そういう人たちは、かなり水面下にいます。政治的にアプローチをして、社会や何かを変えようとかというのは、全く考えていません。最近、ヤンキー化するって云うじゃないですか?一昔前のヤンキーではなくて、まさに、自然派のヤンキーが増えているんですよね。自分たちの暮らしが安全であることが証明できるかどうかが大事で、そのための努力だったら、惜しまずに、何処へでも行きますよ。お金はないけれど、北海道旅行するなら、ウチの農園を見たいって訪ねて来たり、そういう反応をする若い人たちが非常に増えています。」

−− 他方、コンビニに依存している若者がいるわけですから、二極化しているのでしょうか?

「そうですね、確かに、二極化していますね。ただ、スイッチが入ったら、本当に早いですよ。実感しているのですが、出産を控える、家族を持つというのが、一番のターニングポイントです。自分のことには、無頓着なんだけれども、誰かと強い繋がりができたら、その強い繋がりに対して安全性を要求するのが、今の若者のパタンです。」

−− そうだったのですね。

「ついこの間まで、コンビニに通っていた人が妊娠した瞬間に食品のことを考え出すんですよ。自分のことは気にしないだけで、知らなくて、意識していない訳ではありません。もちろん、全く気づいていない人や、経済的に余裕がない人もたくさんいますが・・・。」

−− 潜在的にしっかりした意識を持っている若者がたくさんいるってことですか?

「かなりいます。僕は、この地元で、朝市をずっと企画していて、今では、愛知でも一番大きな朝市に成長しましたけど、2カ所でやっているんですが、そこに来てくれるお客さんもベビーカーを押してくる若い家族と爺ちゃん、婆ちゃんばかりです。今、お金があって、無条件で購入してくれる富裕の高齢者層と、お金はないけれど、条件さえ揃えば、高額のものを購入してくれる若年者層とのバランスが非常に面白いです。というのも、ウチのお客さんにも若い人たちが徐々に増えつつあるのですが、高齢者層のお客さんが、若年者層のお客さんに、アンタ、これはこうしなければダメだよ、とか言うようになってきています。我々が各々に情報を出すより、客層が混在する環境を作っておけば、勝手に情報交換が始まって、コミュニティができるという実感があります。」

−− 真ん中の年齢層が抜けている?

「育てるのに精一杯だった子供が、高校生、大学生、社会人になると、その子たちは自分たちでなんとかするようになるじゃないですか?その親たちは取り残されて、抜け落ちているって感じですね。安心とか安全とか、真実はどうかというのは別にして、意識している人は圧倒的に増えましたから、大手コンビニや流通が自然食業界を取り込んだのはチャンスだと思いました。どうしてかというと、今までは、食の問題とか、環境の問題を意識して、興味を持ってもらう人をつくる方が大変だったんですよ。でも、今は、すでにそこには意識があるけれど、一歩踏み込む情報がないから、コンビニで満足しているだけで、一歩踏み込める情報が的確に届けば、すぐに変わります。お金がなくても、2千円、3千円するようなものを買っていく若い人がすごく増えていますから・・・。」

−− 大手コンビニや流通が狙う戦略を逆に利用しようということですね?

「そうです、それは上手に利用させてもらった方がいいと思います。僕は、この先、自然食業界は明るいと思っています。ウチのこの蚊取り線香なんかも、問題はどう届けるかなんです。商品の良さだけではもうダメです。商品の良さをアピールする戦略はもう終わっていて、自分たちはこういう活動をしています、というのを徹底的に見せると、勝手に、そういう行動、活動をしている人のものを選んで買ってくれます。」

−− COREZO(コレゾ)賞もモノではなく、それを作っている人を表彰しています。というのも、商品が何かの基準をクリアしたことより、その背景とか、作り手が信頼できる魅力的な人物であるかどうかの方がずっと重要で、いいもの、ホンモノを作るのも人なら、マガイモノを作って、ゴマかすのも人だからです。

「今は、ソーシャルネットワークが、かなり拡がっていて、例えば、『株式会社りんねしゃ』の『菊花せんこう』を検索すると、その紐付けで、『りんねしゃ』の『飯尾裕光』のfacebookページとかが出てくるわけですよ。情報発信している人に関しては、誰でもが、その人が普段何を考えていて、どんな行動をしているのかが、かなりの部分、調べられるような時代になっています。若い人たちは、そういうことにとても敏感で、サ、サッと検索して、いい商品を作っている人が、どういう人で、どういう背景で作っているのかというところまでセットで理解しないと、買ってくれません。ですから、商品そのものより、商品の周辺の情報の重要性がどんどん増していることが実感としてあります。」

−− コマーシャリズムに乗った情報かどうかを意識していると?

「無添加ワインなんかも、賢い消費者には、中身や正体がわかっちゃうんですよね。ちょっと調べれば、情報はいくらでもあるわけですから。若い人でも、所得の多い、少ないは関係なく、いいと思ったものには、お金を払うようになってきています。その『いい』と思う視点は、商品説明ではなくて、作っている人がどういう人かというのが重要視されています。自然食品をやっている人は、行動もしっかりしていますから、どんな活動をしているかをきちんと見せれば、自然と信用度も上がってくると思います。それを徹底して戦略的にやれれば、僕は、今は、大きなチャンスだと捉えています。」

−− ワタクシ自身は、自然食には全く興味がなく、むしろ、病人食のイメージがあったのですが、真面目にまともに作ったホンモノが、自然食品店で多く取り扱われているのを知って、それらが、安心、安全なのは、当たり前で、おいしいかどうかは、消費者の味覚と価値観に拠りますが、食べる人が食べれば、添加物で味を操作していないのがおいしいに決まっていますし、そういう商品も、お金を持っている人は、高級スーパーや百貨店で買っているのですから、一般の消費者への情報発信が下手なような気がしました。また、自然農で受賞していただいている方々もいて、調べていると、宗教的だと批判している人も見受けますが?

「自然食というのは、無添加で伝統的な製法の食品と添加物をたっぷり使った食品とを区別するために便宜的に名付けられただけで、確かに、自然食業界の出発点まで遡って歴史を紐解いていくと、宗教的な要素も出てくるのですが、それが良いか悪いかは別にして、宗教的というのは強い信念と言い換えることもできると思います。そういう強い信念がないとそういうことが実践できなかった時代で、強い信念があったからこそ、続けて来れたと思うんですよ。日本では、宗教的というのを悪く捉えますが、世界的に見れば、宗教的なことは、当たり前のことなんで、それを宗教的と一括りにして、悪いイメージを持ってしまう風潮の方が問題だと思います。」

−− 国際的な厳しい食品の安全基準と認められているコーシャー認定もユダヤ教の戒律がベースにあるわけでしょ?

「そうですよ。宗教的というのも逆手にとって、宗教的と思われるほどの強い信念があるからこそ、これほど物があふれている世の中で、日々の生活の中から、より良い食や正しいものを選ぼうとする努力ができるということを、いかにポジティブに発信できるかだと思います。最近、イスラム圏の人が増えて、話題になっているハラールなんて、完全に宗教じゃないですか、ハハハハ。」

ハラール:イスラム法では豚肉を食べることは禁じられているが、その他の食品でも加工や調理に関して一定の作法が要求される。この作法が遵守された食品のこと。

「そういう垣根を上手に乗り越えなければいけないなと思います。大手コンビニチェーンなんかは、やはり、マーケティング力に長けていて、時流を上手く使うんですよね。宗教的だというのをこだわりだとか、強い信念で作り出したとかに言い換えて、購買意欲をくすぐるんですよ。むしろ、自然食業界は、いつまで経ってもそういう努力をしてこなかったことの方が問題だと思います。」

−− 精神的、観念的なことを前面に押し出していた?

「それはそれで大事なことだと思うんですが、社会をよくするとか、環境を改善するとかと言うと大きすぎるというか、漠然としてしまって、伝わらないんです。もう少し言い方を変えて、地域の具体的な特産品で地域を保全するとか、活性化するとか、噛み砕いた表現にすると伝わり易くなると思います。」

「明らかに世の中はいい方向に向かおうとしていると思いますが、それを利用して儲けたり、悪巧みをしようとしている人たちも増えていて、でも、一般人の意識としては、競争して、人を蹴落としてもいいと思っているわけではないし、知らないうちに競争させられていたり、知らないうちに蹴落とされていたりするだけで、それさえ自覚してしまえば、今日からでも変えますという人は結構多いですね。ウチに来るお客さんなんかでも、えっ、そうだったんですか?だったらすぐにでも変えます、とういう人が多いですよ。そういう、こだわりがなかった人にひとつこだわりを植えるとスイッチが入って、すいません、お米はどうしたらいいですか?野菜は?調味料は?水は?となって、いきなり全部変えてしまうの?って聞くと、いい勉強をしたので、せっかくだから、という感じですね。」

「ところが、昔からのお客さんは、醤油だけにはこだわりがあって、ずっと使い続けているけれど、それ以外は一切買わない、という人が結構多いんですよ。今の若い人たちはそういう視点では、物を選ばず、トータルでものごとを見ています。そういう意味では付き合いやすいですね。ストンと腑に落ちてくれると、宗教的だとかと警戒されることもありません。もちろん、ウチは宗教ではありませんが、ハハハハ。」

−− おっしゃったように、発信者の言動が見られているわけですから、それは飯尾さんのキャラがそうさせているのでは?

「そんなことはないと思いますよ。世間ではブラック企業なんて騒がれていますが、本当の自然農をやっているところなんか、従業員は使役、奉仕みたいな形で働いているわけじゃないですか?信念を貫くというのは、きれいごとだけでは通用しないと思うんですよ。でも、そこを、ハハハと笑って言えるような人が増えていけば、世の中も、もうちょっとマシになっていくと思います。」

−− そうですね、善いことをしていても、閉じこもっている人も多いですし・・・

「僕は、デザインの時代になったんだと思っています。それは飯尾さんのキャラですよ、とよく言われるのですが、かなり勉強して、そうならないといけないと思ってやってきたところがあります。僕も誰とも接しなくていいなら、接したくないですよ、ハハハハ。来てくださったお客さんに、ハイ、いらっしゃいませ、って積極的に言いたくない自分もいるんですが、自然食を扱う二代目としての自分の役割は、この先も繋いで行こうと思うと、普段の身形や言動からという意識はかなりありますよ。」

「そういう意味でも、自分自身を含めたトータルのデザインをしていかないと、商品力だけでは売れません。いいものさえ作れば売れるというのはウソです。一昔前は、よくないものでもデザインでゴマかすということもよく見られましたが、今は、デザインで騙されて、一度は買っても、悪いものなら二度と買ってもらえません。本当にいいものを相手に届ける入り口として、デザインを正しく使うという時代です。」

−− 「菊花せんこう」は、「りんねしゃ」さんの考え方をよく表しているようですが、他にもありますか?

「今、ウチで一番力を入れて取り組んでいるのが、『ほうろく菜種油』です。国産菜種を使用して、天日干し、焙烙釜での薪焙煎、圧搾等、伝統製法で作った油なんですが、かなりの方々に知って頂いています。今の世の中で、一切、チラシ等を作らず、広告宣伝、営業もしていないのに、これだけ浸透しているのは、社会的なテーマを落とし込んで、徹底的にデザインを作り込んでいるからこそ、商品イメージが正しく伝わっているのだと思います。こういうことをやれば、確実に売れるという確信はありますね。」

蜷川さん「ほうろく油に取り組まれて何年ぐらいですか?」

「実は、ほうろく油の前の話が長いんですよ。愛知県西尾市に、昭和24年に創業された大嶽製油という油搾り屋さんがあって、そことウチは30数年来の付き合いがあり、そこの油を唯一、ウチが扱っていたんです。地元のお爺ちゃん、お婆ちゃんが減反で代替作物として栽培した菜種の売り先がなかったので、そこで油を絞ってもらって、自家用に持ち帰るという、委託を受けて油を搾る小さな工房で、油を販売していたわけではありませんでした。でも、精油技術は確かだったので、ウチは、そこの油を分けてもらって販売していました。ところが、そこのご主人の後継ぎがいなくなって廃業されることになり、その直前に、たまたま、工房を訪れた遠い親戚に当たる方が、伝統の圧搾菜種油の技術を残したいと、その方の下で修行をして、独立して油づくりを始めたのです。」

「ウチは大嶽製油さんが廃業された時点で、油の取り扱いは無くなったのですが、その後、そこで修行した『ほうろく屋』さんが、大嶽製油のお婆さんに一人前のお墨付きをもらって、ウチの油をずっと扱ってくれていた『りんねしゃ』に行きなさいと言われたと、僕に連絡がありました。それで、すぐに訪問すると、大嶽製油さんにあった機械も全て引き継がれていて、作り方も全く同じでした。大嶽さんの油には、どっしりとした中にもしっとり枯れた味わいがありましたが、作り手が若い分、少し軽いけれど、エネルギーが溢れていました。味の違いも面白かったし、『ほうろく屋』さんと話をしていくうちに、売れないと続けなれないし、自分たちも売りたいと思いました。」

「地域の油、伝統製法を守ろうという明確なビジョンがあったので、世の中にコンセプトをきちんと伝えるために、しっかりマーケティングをして、デザインして、出会いから、2年の歳月をかけました。今後、地元産の原材料を確保するためにも、協力しながら農業法人を立ち上げて、完全に自社グループでの栽培に切り替えるところまで話は進んでいます。長い取り組みの中で、『ほうろく屋』さんの油が、他と何が、どれほど違うのか、何故いいのかは、よく理解しているし、自然食業界で油がどのように扱われてきたかを生産者である『ほうろく屋』さんは知らないので、今、『ほうろく油』紹介用の資料の文章は、僕がつくりました。『ほうろく屋』さんも、『ほうろく菜種油』は、りんねしゃのPB(プライベート・ブランド)ではなく、一緒に連携してつくった商品だと認めてくれて、製造者が『ほうろく屋』さん、販売者は『りんねしゃ』と入ったラベルを使ってもらっています。」

「それから、買ってもらう戦略として、ごまんとある菜種油からウチの菜種油が目に入って、手に取って、選んでもらうためには、棚が欲しいわけですよ。それにギフトで使ってもらうためにも、少量多品種を扱う自然食品店に扱ってもらえるよう混載で送るためにも、『ほうろくシリーズ』がいるということで、大嶽さんが作ってきた昔ながらの製法と今の『ほうろく屋』さんだからこそできる新しい製法でつくったのと、ラインナップを5種類揃えました。そういうことにじっくり取り組み、元々ある商品の意味付けをするだけにも、2年もかけたので、発売前から、大きな反響がありました。」

−− 今後の活動は?

「愛知のアースデイの活動の代表や、名古屋でオーガニックカフェとか、産地見学とか、味噌づくり等のワークショップ等、数々のイベントをやってきて、一昨年、名古屋で得たものを地元に還元しようと、このすぐ近所に、自宅兼店舗を建てて、オーガニックかき氷の店を9月いっぱいまで営業していました。それから、津島市内2カ所で朝市をしていて、毎回、200店舗ぐらい出店者が集まりますが、どちらかというとこの自然食品の仕事より、そういう僕が携わってきた活動を通じて、愛知県の農家さんや若い生産者さんとか、いろんな人たちと知り合い、繋がりが強くなったと思います。さらに、来年の春からは、GOOD FOOD INFORMATION FOR FARM という体験農場を始める予定です。

COREZO(コレゾ)財団・賞の趣旨をご説明して、受賞のお願いをしたところ、

「あっ、眞田さんのfacebookに受賞のことが出ていたので、Webサイトとかも拝見して、へぇー、こんな賞があるんだ、と思っていました。まさか、自分がとは思っていませんでしたが、お断りする理由もありません。」と、ご承諾下さった。

 理路整然とした語り口で、興味深い情報満載のお話に思わず引き込まれて、時間が経つのも忘れてしまった。特に、普段付き合いのない若者の情報は、日頃の活動を通じての話であり、とてもリアリティがあり、大変勉強になった。

 これからの世の中を変えていくだろうエネルギー溢れる若い担い手に出会えたことに感謝である。それにしても、BLKニナガワのお知り合いにはWHITEな方が多いのが不可思議である。

COREZO(コレゾ)商品力だけでなく、その背景から、自分自身の身形、言動まで、トータルでデザインを磨いて、情報発信する二代目」である。

 

COREZO(コレゾ)賞 事務局 (2014.10.最終取材、2014.11.12.編集更新 文責 平野 龍平)

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