角谷利夫さん

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 COREZO(コレゾ)「他で置き換えることはできない、お米本来の自然の甘さとおいしさを頑に醸造という伝承の技で引き出す、ホンモノのみりんづくり」賞

 

角谷 利夫 (すみや としお)さん

 

株式会社角谷文治郎商店 代表取締役

愛知県碧南市出身、在住

 

経歴・実績

1910年 初代文治郎、現在地を創業の地と定める

      酒類(みりん・焼酎乙類)の製造免許を請ける

1939年 二代目文治郎、事業を相続

1982年 (株)角谷文治郎商店を設立し、酒類免許を申請

1985年 代表取締役に角谷利夫就任

2000年 オーガニック認証(JONAOCIA)取得

2004年 本社事務所棟竣工・移転(へきなん都市デザイン文化賞受賞)

2008年 NHKテレビ『産地発 たべもの一直線 みりん』出演(全国放送)

2011年 FOOD ACTION NIPPON アワード2010 製造・流通・システム部門 優秀賞受賞

 

受賞者のご紹介

以前より、角谷文治郎商店さんの三州三河みりんの大ファンで、日東醸造社長の蜷川洋一さんが角谷社長と懇意にしておられると伺い、是非ともということでお連れ頂いた。

 

 あの、三州三河みりんをつくっておられるところにピッタリのイメージの工場と木造の社屋だった。

 

物心がついた頃から、口の中に残る砂糖の直接的な甘さが大キライで、年を経るごとにさらに甘いものがダメになり、サラリーマン時代、営業をしていて一番困ったのが、訪問先で、砂糖の入った珈琲や紅茶、甘いお菓子類を出して下さることだった。当初は我慢して頂いていたのだが、口にすると気持ちが悪くなるので、「糖尿病で、医者から甘いものを控えるように言われています。」と、ウソの言い訳をしていたのだが、「これなら大丈夫でしょ?」と、気を利かせて、せんべいやおかきを出して下さるところもある。スナック菓子類を筆頭に、全ての菓子類もダメなので、「重度の糖尿病とその合併症で、食事療法中に付き、申し訳ありません。」というのをネタにしていた。そのおかげかしらんけど、ほとんど医者に掛かったことはない・・・。

 

 で、ウチには砂糖や甘味料の類いは一切ないのだが、角谷文治郎商店さんの三州三河みりんだけは別なのである。そこら辺で売っているみりん?とは全く別もんのうまさで、ええ醤油(例えば、ヤマロクさん製の鶴醤や日東醸造さん製のしろたまり)とあわせて、かえし(砂糖は使わない)をつくると、出汁が入っているのかと思う程のうまさなのである。子供の頃から、甘い油揚げの入ったきつねうどんが大嫌いだったが、三州三河みりんで作ったのは大好きなのである。

 

 工場の方から社屋に戻って来られた作業着姿の角谷利夫社長に、ご挨拶をして、角谷文治郎商店さんの三州三河みりんのファンであることをお伝えし、お話を伺った。

 

−− 角谷文治郎商店さんの三州三河みりんのあのおいしさのヒミツを教えて頂けますか?

 

 「秘密?特別なことは何もしていません。みりんの原料は、もち米、米こうじ、本格米焼酎だけです。『むろ』で醗酵させてつくる米こうじと米焼酎も自社でつくっています。ただ、よい素材を使い、『醸造』という日本古来の伝統的な技を生かして、もち米のうまさを引き出した本物のみりんを消費者の皆さんにお伝えしているだけです。」

 

 「ごはんを口に含んで、噛めば噛むほどに、「甘さ」と「旨さ」が増し、おいしさが伝わってきますね?しかし、この時に感じ取る旨みは、お米のおいしさのほんの一部に過ぎません。 お腹に入って2〜3時間後には、米のデンプンはブドウ糖に、米のタンパクは、アミノ酸に消化、分解されて初めて栄養として、体に吸収されます。」

 

 「この隠れたお米のおいしさも『醸造』という日本の伝統的な技のみで引き出したのが、本格みりんです。もち米のおいしさを『米こうじ』の力を借り、一年以上の醸造期間をかけて丸ごと表に引き出しています。だから、みりんには、私たちが意識していなかったお米の味わい・おいしさもあるのです。」

 

-−みりんの歴史を教えて頂けますか?

 

 「みりんそのものの起源には諸説あり、日本に古くから存在していた白酒の腐敗防止として、約500年前に、室町時代末期に伝来した焼酎を加えたという日本発生説や、中国で実際存在した密淋(ミイリン)という甘い酒が、戦国時代の頃、伝来したという中国伝来説がありますが、その当時、既に行われていた酒の中に『もち米』を更に仕込み、甘くて濃い『酒』を作る方法から、焼酎の製法を取り入れ、焼酎の中に『もち米』と『米こうじ』を仕込み、それ以前にも増して『甘くて濃い酒を』を作る新しい技術として発展してきました。」

 

「江戸時代になると、みりんは、女性でも楽しんで飲むことのできる甘口の高級なお酒として人々に受け入れられました。しかし、当時のみりんは甘みが薄かったようです。焼酎の蒸溜技術が未熟であったことと、みりんの甘さは、米のでんぷん質を糖に変える麹によって造り出されますが、こうじを作る技術が発達していなかったため、濃厚な甘みを実現できなかったのです。」

 

 「お酒として庶民に浸透していったみりんは、やがて、料理のコクやうま味を引き出す調味料として使われるようになります。調味料として使われた歴史も古く、戦国時代からとか、江戸時代からとか、こちらも諸説あるのですが、当時は、砂糖よりも入手しやすい甘味料として用いられました。 甘味料としての製法が確立したみりんは、さらに発展を遂げ、焼酎歩合の少ない『本みりん』と焼酎歩合の多い『本直し』とに分けられるようになりました。」

 

「みりんは、『焼酎』の中に、『もち米』、『米こうじ』を仕込むという、酒造りと異なる独立した製法です。焼酎原料には清酒粕や米を使い、かけ米にもち米を使うという違いはありますが、精米、蒸し、こうじ作り、搾り、とほとんど同じ道具を使いますので、清酒造りの傍ら、兼業でみりんを造る蔵が多く、明治時代には3千に近い免許場がありました。」

 

 「そして、社会が安定してきた明治・大正時代には、西洋の技術が導入されて、蒸溜技術が発達し、全国的に滋養飲料や割烹調味料として、みりんの消費が増加しました。時代を経る毎に、甘みや旨みの濃いものが求められるようになり、 大正末期から昭和初期にかけて、今日のようなエキス分が50%に近い、濃厚なみりんが造られるようになりました。」

 

 「戦前の古き良き時代の『米1升、みりん1升』という仕込み方法も、戦争の影響から米不足の世相を反映して、昭和12〜3年には、製造実績による配給制となり、昭和18年からの8年間は、製造が禁止されていました。その後、生産が再開されるのですが、食糧事情は厳しく、米不足の中、一部の高級割烹やうなぎ料理店等だけで使われていたみりんは、『贅沢品』として、大変高い酒税が課されました。昭和30年(1955年)頃には、米1升100円の時代に、みりん1升の売値が1,000円の内、762円が酒税でした。」

 

 「それに、戦後は、物価統制令が布かれ、みりんは、お酒と同様に、丸公とも呼ばれた統一の公定価格が決められていたのです。品質が高く、おいしい酒から売れて、入手困難になったので、そこから『まぼろしの酒』という言葉が生まれました。原料のお米だけで100円かかる訳ですから、残りの138円の中から、その他の原材料費、人件費等、製造、販売、流通コストを差し引いて、利益を捻出しなければならないという厳しい経営環境に置かれました。そのため、全国のみりん業者が免許を返上して、転廃業が相次いだのです。」

 

 「このような高い酒税負担から逃れるために生まれたのが、『新みりん』と『塩みりん』でした。『新みりん』は、雑穀を原料に糖化した液に化学調味料と添加剤を加えたもので、アルコール分を含まないので、別名、『煮切みりん』とも呼ばれ、『塩みりん』は、塩水の中でアルコール発酵させた清酒のような調味液をつくった後に、甘みを加えたもので、こちらはアルコール分を含みますが、塩分があるので、飲用にはなりません。これらは、『みりん』の3文字を使いながら、酒税法の外で、製造・販売が開始されました。」

 

 「昭和31、34、37(1962)年と3回に渡って、大幅な減税がなされて、酒税は121円まで下がり、高級調味料だったみりんが、家庭用調味料として使われるようになりました。大正時代に10万石(1石=10斗=100升≒180L)だった生産量は、戦後、激減しましたが、酒税減税の結果、昭和40(1965)年代初めに回復して、60万石を超えるようになりました。」

 

 「その頃、政治的な米価の引き上げがあったのですが、みりんの販売拡大を優先するがために、原材料の上昇分を価格に転嫁することができず、糖類、アルコール類の増量というつじつま合わせが行なわれました。そして、第2次高度成長期には、全国に大型スーパーができ、酒販店の御用聞きが販売していた味噌・醤油の調味料は配達商品から、スーパーでの買い回り商品に変わり、酒類販売免許を持たないスーパーには、酒類の『みりん』ではない、『新みりん』と『塩みりん』が並び、急成長しました。」

 

 「そのような紛らわしい表示で販売されたため、みりん生産者、流通、消費者に混乱を招き、昭和50(1975)年、公取委より、内容の伴わない名称表示であると、排除命令が出され、本みりん以外の商品は『みりん風調味料』に統一されました。しかし、スーパーの売上拡大と共に増え続け、今や、ホンモノの『みりん』をはるかに超える生産量になっています。」

 

—— みりんのつくり方を教えて頂けますか?

 

 「現在では、みりんには、伝統的製法と工業的製法の2種類の製法がありますが、ウチの『本格仕込み三州三河みりん』は、もちろん、伝統的製法でつくっています。本来の『みりん』の原料は、もち米、米麹、本格米焼酎(乙類)のみです。後で工場をご案内しますが、まず、基本のもち米をといで浸水し、蒸して冷まします。うるち米も、といで浸水し、蒸した後、1日寝かせて米こうじにします。さらに、焼酎用のうるち米を清酒仕込みにし、圧縮・蒸留します。次に、それらをいっしょに仕込んで2〜3ヵ月置きます。これが、『みりんもろみ』の状態で、はじめのうちは、水分はほとんどありませんが、ゆっくりと糖化し、米が溶けて液化していきます。このときに、焼酎が発酵を抑え、じっくりとうまみがでてくるのです。これを袋に入れて搾った後、約1年間の醸造熟成期間を経て、みりんになります。」

 

 「みりんの約50%が、糖分やうまみ成分のエキス分で、アルコール分が約14%、残りが水分です。みりんは搾ってから、寝かせますが、日本酒は、寝かせてから最後に搾ります。

 

 「また、日本酒は、『寒仕込み』といって、冬場に仕込みますね?あれは、冬の寒さで、醗酵の調整をしているのです。それに対して、私どものみりんの仕込みには、『花が咲く頃』を選んでいます。梅と桜が咲く『春仕込み』と菊が満開の頃の『秋仕込み』の2回です。この時期に仕込むと、デンプン質を糖分に、タンパク質をうまみ成分に分解するもろみの期間を短くできるので、香りと味わいが引き立ちます。新年には焼酎を仕込みます。」

 

「ここで、少し、こうじと醗酵の話をしておきましょう。」

 

 「こうじは、米や麦等の穀物にカビ菌の一種であるこうじ菌を混ぜ合わせて、繁殖させたものです。酵素を出して、デンプン質を糖に、タンパク質をアミノ酸に分解します。醗酵は酵母菌や乳酸菌等の働きで、分解された有機物をアルコール等に再合成します。」

 

 「お粥にしたご飯と米こうじを50℃前後の高温で仕込むと、1日でデンプン質が糖化し、甘みに変わったのが甘酒です。味噌には、米味噌、麦味噌、豆味噌とそれらを合わせた調合味噌がありますが、赤味噌と白味噌の違いは、その熟成期間の違いです。白味噌は、熟成期間が数ヶ月と短く、塩分濃度が低いのですが、赤味噌は1年以上熟成し、塩分濃度が高く、味噌は、塩分濃度で醗酵の調整をし、大豆のタンパク質は分解されて、アミノ酸等のうまみ成分に変わります。また、大豆やこうじのタンパク質(アミノ酸)と糖分が、メーラード反応とも呼ばれるアミノカルボニール反応が進行し、褐色に変化するので、熟成期間が長い程、色が濃くなります。みりんもこの反応によって琥珀色になります。」

 

 「西京味噌が甘いのは、白味噌の中でも米味噌で、原料の大豆の他に米も多く使います。米の80%はでんぷん質なので、米こうじで糖化するからです。糖化すると、液化もし易くなります。八丁味噌は、100%豆味噌なので、うまみ成分が多く、約2年間、長期熟成するので、塩分濃度も高く、赤味噌でも色が濃くなり、糖分が少ないので液化し難いです。また、まるや八丁さんでご覧になられたと思いますが、仕込んだ上に石積みをして、重しを載せるのは、味噌をつくるこうじ菌は嫌気性のため、空気を押し出すためです。逆に、醤油をつくるこうじ菌は好気性のため、仕込みの初期段階では撹拌を繰り返します。」

 「次は、どうしてみりんにもち米を使うのか、お米の話です。」

 

 「デンプンはその構造によって、アミロースとアミロペクチンの2つに分けられますが、もち米は強い粘り成分であるアミロペクチンがほぼ100%であるのに対して、一般に食べられている『うるち米』には、アミロースが約20%含まれています。かつて人気のあった日本晴というお米の品種のアミロース含有率が約20%に対して、17〜8%とより粘り(もちもち感)が強い、コシヒカリに好みが移ってきました。」

 

 「米を炊くと、ふっくらと粘りのある状態になりますね?あれは、米の主成分であるでんぷんの構造が、水と熱の作用でほどけて膨張し、粘性の強い糊になるためです。この状態を糊化または、α化といい、α化する前のでんぷんをβでんぷん、α化したものをαでんぷんと呼びます。βでんぷんは水に溶けず消化しにくいのですが、αでんぷんになると消化がよくなります。αでんぷんは冷めるとまたβでんぷんに戻ってしまいますが、再加熱により再びαでんぷんになります。コシヒカリは、冷めてもおいしいと言われたり、もち米を蒸したおこわは冷めても、もっちりしているのは、アミロース含量率の低いデンプンほど、デンプンの老化であるβ化し難いからです。」

 

 「みりんにもち米を使う理由はこの2種類のデンプンのうち、アミロペクチンの方が冷めてもβ化し難くく、糖に分解されやすいからです。つまり、みりんはもち米を使うので、分解されて出てくる糖が多く、他のお酒よりも甘くなります。みりん造りのもう一つの特徴が、醗酵の調整に焼酎を使うことですが、その甘みを残すため、せっかく出来た糖を酵母がアルコールに変えないように、焼酎を入れて酵母の働きを抑えているのです。」

 

−− 伝統的製法と工業的製法はどう違うのですか?

 

 「伝統的製法では、実際には、米1升、みりん1升ではなく、焼酎にも米を使いますので、米1.5升ぐらい使って、みりん1升とみりん粕ができます。みりん粕はそのままでもおいしく召し上がれますが、お菓子や守口漬等の漬け物にも使われて人気があります。」

 

 「これに対して、戦後から行われるようになった工業的製法では、米1升から5〜6升の本みりんをつくるようです。足らない分は、といっても米の2.5倍量ぐらいになりますが、ブドウ糖で増量します。使うブドウ糖というのは、水あめです。コーンスターチ等のデンプンにシュウ酸を加え、加水分解してつくります。本みりんは、みりん風調味料と区別するために、メーカーが使い始めた言葉です。」

 

 「米を常温で糖化するには2〜3ヵ月掛かりますので、高温糖化法という、酒造りにも使われますが、米を蒸す代わりに高熱によってデンプン質をα化し、これに麹と酵母を加えて醗酵させて造る方法が考え出されました。この方法を使うと、数週間で糖化できます。この他にも、麹菌がつくる『酵素』を補うため等に、麹菌由来ではない『酵素剤』を使用したり、加圧蒸煮などの処理を施して、原料のデンプンやタンパクの利用効率を上げ、乙類焼酎ではなく、ホワイトリカーなどの甲類焼酎を用います。こうして、醸造・熟成期間は、40日から60日ほどに短縮され、効率的に、かつ大量に生産されています。」

 

 「今では、もち米の生産量は米全体の3〜5%程度しかありません。高価なので、規格外のくず米やうるち米、米粉も使われていました。しかし、世間も騒がせた平成5(1993)年の米の大凶作では、国産のもち米も不足しましたが、海外の米を安く入手できるところで仕込み、輸入したもろみが、みりんの代替え原料として使われるようになりました。」

 

 確かに、スーパーに行って、「本みりん」の原材料を見ると、もち米(タイ産)とか、表記されているものもある。

 

 気になったので調べてみると、 みりんとは、次に掲げる酒類でアルコール分が15度未満のもの(エキス分が40度以上のものその他酒税法施行令第5条第1項に規定するものに限る。)をいう

イ.  米及び米こうじにしようちゆう又はアルコールを加えて、こしたもの

ロ.  米、米こうじ及びしようちゆう、アルコール又はみりんにその他水のほか、①とうもろこし、ぶどう糖、水あめ、たんぱく質物分解物、有機酸、アミノ酸塩、清酒かす又はみりんかす又は②米又は米こうじに清酒、しようちゆう、みりん若しくはアルコールを加え、又はこれにさらに水を加えて、すりつぶしたものを加えて、こしたもの

ハ.  みりんにしようちゆう又はアルコールを加えたもの

ニ.  みりんにみりんかすを加えて、こしたもの

 

 以上のように酒税法に規定されている。

 これを見る限り、もち米でなくても、米ならなんでもよく、1粒でも原料として使っていれば、みりんと称してよいと解釈できるし、焼酎も使わなくてOKだし、結構、いろんなもんを入れてつくってもOKと言う訳だ。ちなみに、現在の税率は1kl当たり、20,000円なので、1.8l当たり36円のようだ。

 

−− ウチはいつも『本格仕込み三州三河みりん』を1升(1.L)で買うのですが、どのように保存するのがいいですか?

 

 「アルコール度数が、14度前後ありますので、常温で保存ができます。エキス分の糖分が結晶化して白くなることがありますが、品質には何の問題もありません。温めると元に戻ります。アルコール分が1%以下のみりん風調味料は、開栓後に外部から酸素や雑菌が混入し、酸化・腐敗しやすくなるので、糖度を上げていますが、冷暗所に保管し、なるべく早く使い切る必要がありますね。保存料を添加しているものもあります。」

 

 −− みりん風調味料というのは?

 

 「先ほどもお話しした、酒税が高かった時代に、みりんの代用品としてつくり出されたもので、水あめやブドウ糖またはデンプン質の糖化液にグルタミンソーダを中心とする化学調味料やアミノ酸液、香料等を混合して造ります。 塩水中でアルコール発酵させて造った調味原液に糖液などを加えて調整したもの(かつての塩みりん)と、米のかわりに雑穀で造った糖液にアミノ酸、酸味料を添加したもの(かつての新みりん・煮切りみりん)などが販売されていますが、こちらは、アルコール分をほとんど含みません。」

 

 「砂糖の代用品として、甘さが蔗糖の数百倍あり、圧倒的に安価だった合成甘味料のサッカリンやズルチン(中毒事故が多発し、1969年食品への添加禁止)が使われていた時代もありましたが、これらは熱に弱いという欠点があり、次に、砂糖に近い上質な甘みで、安定したチクロが使われました。これも発がん性が疑われ、1969年には使用禁止になりましたね。合成殺菌・防腐剤として使われていたAF2(フリルフルマイド)も安全性に疑いがあり、1974年から使用禁止になりました。」

 

 「砂糖は、製糖工場で、原料のサトウキビを搾り、不純物を石灰等で沈殿させて、取除き、煮詰めて、遠心分離機で結晶化し、粗糖(固体)と糖蜜(液体)に分けます。粗糖はまだアクが強いので、さらに精製して純度を高めたものが蔗糖です。精製した後に残った黒褐色のドロドロの液体が廃糖蜜ですが、まだ糖分が含まれているので、そのまま甘味料にしたり、化学調味料や醸造アルコールの原料になって、残さず使われています。」

 

 「砂糖は蔗糖の1種類の甘みしかありませんが、もち米を丁寧に醸造して造ったみりんは、こうじの力で、ブドウ糖の他、希少なコージビオース、ニゲロース、イソマルトース等の二糖類、三糖類、オリゴ糖他、何種類もの糖類がつくり出されていて、砂糖にはない上品でまろやかな深い甘さが特長です。しかも、甘さが舌に残りません。」

 

 「また、みりんは、含まれるアルコールの働きにより、こく・うまみを引き出し、臭みを消して香りを引き立て、煮くずれを防ぐというさまざまな効果が得られるほか、みそ、しょう油、酢などほかの醸造調味料と相性が良く、照り・つやを出し、作り立てのおいしさを長持ちさせます。お米のおいしさは他では置き換えることはできません。飲んでおいしいみりんこそが、調味料にも最適な本物のみりんです。

 

−− 大量生産、大量販売をして、経済効率、利益を重視する今の世の中で、なかなかできないことでは?

 

 「私どもは、規模が小さく、手工業です。その大量生産、大量販売をする、経済効率、利益重視の今の世の中では、負け組なんですよ。大手のメーカーさんと同じ土俵に上がれば、どうやっても対抗できません。そういう意味では、負け組でいいんです。私たちは、伝統として受け継がれ、歴史に磨かれた技と味を大切にして、私たちができることをするだけです。」

 

−− えっ?角谷文次郎商店さんは勝ち組でしょ?

 

 「ハハハハ、負け組でもやり続けていると、世間が後追いしてくれることもあるんですね。いつの間にか時代のニーズに合って来たんです。」

 

 「有名なブランドや売れているものがいいものとは限りません。自分と自分の家族の安全は自分で守らなければならない時代です。知名度の高さや規模の大小で判断するのではなく、消費者の皆さんにも、本当の意味で、いいもの、ホンモノをご自身で選ぶ目を持って頂きたいと願っています。」

 「ここ、愛知県東部の三河地方は、きれいな伏流水や、おだやかな気候に恵まれ、三河平野では、米、麦、大豆が豊富に収穫されて、江戸時代から醸造が盛んに行われていました。江戸の徳川家にこの地で育まれた清酒、味醂、醤油などが廻船問屋により運ばれていきました。昭和30年代頃から、TVの普及に伴い、みりんや今のみりん風調味料の業界も、大手メーカーがお金を掛けて広告宣伝費をするようになって、みりんの業界も寡占化が進みました。明治の頃には、この辺りで、みりんを製造していた会社が50社もありましたが、今では、7社となってしまいました。それでも、現在も、みりん業者数全国一を誇るみりん造りの本場で、当店は、明治43年に創業して以来、三代に亘り、みりん醸造一筋に専念してきました。」

 

 と、熱く、熱く語って下さった角谷社長にCOREZO(コレゾ)賞の受賞をお願いしたところ、快く、承諾して下さった。

 

 その後、酒蔵とは異なる甘く芳醇なみりんの香りが漂う工場をご案内頂き、もの作りは、ひとであることを強く再認識すると共に、角谷さんのお人柄、生き様、その人物そのものが、「三州三河みりん」であり、「本みりん」や「みりん風調味料」が、「みりん」という三文字が使われているだけの、全く別モノであることがよくわかった。

 

 お嬢さんの治子さんから「美味しい」と伺って、気になっていることが2つある。みりん粕と砂糖を使わず、みりんだけでつくったぜんざいである。ぜんざいも苦手だが、一度、是非食べてみたい。

 

 また、角谷文治郎商店さんでは、本格仕込み「有機三州みりん」も醸造しておられて、みりんは、酒税法の適用を受けているため、酒類はJAS法の適用除外(監督官庁の壁?)とされ、有機加工食品には含まれず、有機JASマークは付かないが、日本オーガニック&ナチュラルフーズ協会(JONA)より、有機農産物加工食品の認定証明を受けておられるそうだ。

 

 角谷さんは、「お米は、日本の気候・風土に最適な穀物であり、南から北の果てまで栽培されている自給穀物で、食料としてだけでなく、毎年、繰り返し再生される田園風景から、私たちは四季の移り変わりを感じ、生活に潤いや安らぎを提供されている。日本の農業を守るためにも、その果たしている環境効果を積極的に評価し、食料費に環境貢献費用を加算して、購入すべきである。将来に向けて、安全な生活環境を確保する手段として、化学肥料や農薬を使わず、自然の営みの中で農作物を育てる有機農業の実現に積極的に参加し、日本のお米を原料にみりん造りをすることを通じて、日本の緑の確保、環境保全に貢献していきたい(要約)。」とおっしゃっている。

 

 そういう心のある商品が、世の中からどんどん無くなっている。角谷さんにお目に掛かって以来、我が家のみりんを使う度に、角谷さんの笑顔を思い浮かべてしまうのである。

 

 皆さんも、安いからといって、わっけのわからんもんを買って、安物買いの◯◯失いだけでなく、もっと大切なものを失わないように・・・。

 

COREZO (コレゾ)「他で置き換えることはできない、お米本来の自然の甘みとおいしさを頑に醸造という伝承の技で引き出す、ホンモノのみりんづくり」である。

 

角谷 利夫 (すみや としお)さんに関するお問い合わせは

メールで、info@corezo.org まで

※本サイトに掲載している以外の受賞者の連絡先、住所他、個人情報や個人的なお問い合わせには、返答致しません。

 

COREZO (コレゾ)賞 事務局 (文責 平野龍平 最終取材2013.07. 編集更新2013.08.28.)

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